日本酒造りで大切な要素を表すものとして「一麹、二酒母、三造り」と呼ばれる言葉があります。
日本酒造りに欠かせないこれらの3つの要素のうち、今回は「酒母(しゅぼ)」について詳しくご説明していきます。
酒母とは?
酒母とは日本酒醸造のために「蒸した米、麹、水を用いて優良な酵母を培養したもの」。
日本酒には純米酒のようにその原料に由来したものや、大吟醸のように精米歩合や発酵過程に由来したものなど、いくつかの種類がありますが、後に説明する「生酛(きもと)」や「山廃(やまはい)」は酒母の作り方に由来した日本酒で、「生酛(きもと)造り」や「山廃(やまはい)仕込み」と呼ばれています。
日本酒を造るうえで最初の工程となるのが「酒母」です。では、さっそく酒母の作り方を見ていきましょう。
酒母の作り方
まず始めに、「もと桶」というタンクに麹と水を加え、混ぜ合わせて入れます。そこへ少量の酵母と醸造用乳酸を加え、さらに蒸した米を加え、酵母菌を大量に繁殖させます。これがしばらく経つと酒母となるのです。
昔は酒母のことを「酛(もと)」と呼んでいて、この酒母(=酛)を使って日本酒の仕込みを行います。
次の3種類が日本酒の主な酒母です。
・速醸酛(そくじょうもと)・・明治末期に登場し、現在の日本酒造りの主流となる酒母
・生酛(きもと)・・江戸時代から続く伝統的な日本酒造りの酒母
・山廃酛(やまはいもと)・・生酛の改良型で明治初期に確立した酒母
現在、ほとんどの日本酒は速醸酛(そくじょうもと)で造られていますが、生酛(きもと)や山廃酛(やまはいもと)を使って造るお酒が「生酛造り」や「山廃仕込み」です。奥深い味わいで、これらが好きな日本酒ファンもたくさんいます。
■酒母造りにおける生酛(きもと)とは
日本酒の酒母を作る際に加える醸造用の乳酸は、雑菌などを死滅させる役割を果たしています。
酒母造りの一つである生酛(きもと)は、酒母造りにおいて、現在の日本酒の主流である速醸酛(そくじょうもと)のように人工的に乳酸を添加させるのではなく、蔵や酒造りに使う桶、仕込み水の中に自然に含まれる乳酸菌を繁殖させて乳酸を造るという手法です。
そこに酵母菌を加えることで、酵母菌のアルコールを苦手とする乳酸菌は消滅し、タンクの中は乳酸菌から酵母菌に代わります。こうして生酛(きもと)は完成するのです。
生酛(きもと)の味わい
生酛(きもと)造りで造られた日本酒は、スッキリとした味の中に深みのあるコクや旨みが感じられ、後味が長く続くのが特徴。
ときにはまろやかな酸味を感じることもできる奥行きのある味わいが、クリーム系やチーズ系の料理との相性も良いとされています。
山廃(やまはい)は生酛(きもと)の派生
日本酒における酒母造りの一つである「山廃(やまはい)仕込み」は生酛(きもと)から造られた「生酛(きもと)造り」の派生であり、同じく自然の乳酸菌を一から育成する流れをたどっています。
「山廃(やまはい)仕込み」は、生酛(きもと)造りでは欠かせない「山卸し」という作業を省略した製法です。山卸しとは、乳酸菌を増やす準備としてお米を潰す作業のことで、これをすることで乳酸菌のエサとなる糖分ができやすくなるのですが、この山卸しは寒さの中で夜通し行われる辛い作業でした。
そこで研究を重ね、「麹(こうじ)」がお米のデンプンを糖に変える働きがあることを見つけ、お米を潰す作業をしなくても日本酒を造ることができるようにしたのが「山廃(やまはい)」です。
生酛(きもと)造りの工程から、「山卸し」を「廃止」したことから、「山廃(やまはい)」と呼ばれるようになりました。
山廃(やまはい)の味わい
山廃(やまはい)仕込みの日本酒も生酛(きもと)造りの日本酒同様に、複雑で奥の深い味わいで香味も引き継いでいると言えるでしょう。
もちろん、日本酒の種類によって味も香りも違いますが、日本酒の酒母造りである生酛(きもと)や山廃(やまはい)は似た工程をたどっているので何らかの共通性を見つけるのも楽しいですね。
最後に
今回は日本酒造りにおける酒母、その中でも伝統的な生酛(きもと)山廃(やまはい)についてご説明しました。これを機に、奥の深い日本酒を味わって頂けたら幸いです。