アサヒスーパードライを始め、数々の大ヒット、ロングセラー商品を生み出し続けているアサヒビール。
その歴史は、実は苦難の連続でした。様々な商品の開発や宣伝方法の模索、戦時中を乗り越えて世界的な発展を遂げたアサヒビールの歴史を、商品と共に紹介します。
アサヒビールの特徴
アサヒビールの特徴といえば、多くの人が口にしたことがあるメタリックシルバーの缶や辛口やキレある味わいです。
その人気は国内に留まらず海外でも人気を誇っています。2011年には、ビール界のオスカー賞とも言われる「BIIA」で金賞を取るなど、味・品質ともに世界から大きな評価を受けています。
また、2021年に開催予定の東京オリンピックにおいては、ビールメーカーで唯一国内最高水準のスポンサーであるゴールドパートナーでもあります。日本を代表する大企業の1つというだけではなく、今では主流になっているビールテイストのパイオニアでもあるのです。
初めての辛口ビール
今では当たり前の辛口ビールですが、アサヒスーパードライが誕生する前は苦味が強く重たいビールが主流でした。
そんな中でキレ味を強調した辛口ビールはどんな料理にも合い、何杯でも飲める味が評判を呼び、ユーザーの支持を得ました。
数々の日本初を発売する
アサヒの特徴は、これまで数々の日本初に挑戦してきたことです。
・1900年に日本初のビン入り生ビール
・1958年に日本初の缶入りアサヒビール
・1969年に日本初のビールギフト券の販売
・1971年に日本初のアルミ缶入りのビールの販売
など、今では当たり前の日本の缶ビール文化を先取りしてきたのです。その後、最大の人気商品であるアサヒスーパードライが誕生します。
現在でも、糖質ゼロの発泡酒「アサヒスタイルフリー」や新ジャンル「クリアアサヒ」など様々なビール系飲料を展開しています。
国内ビールの歴史
アサヒの歴史を紹介する前に国内ビールの歴史を紹介します。
ビールの誕生については諸説あり、特にアルコールの醸造技術については紀元前から存在する説もあるため、今回のビールの歴史もその中の一説から紹介します。
最古の記録はイギリスから
日本に初めてビールが輸入された、または飲まれた時期については諸説あり明確に定まっていないため、ここではいくつかの説を紹介します。
一般的には、18世紀後半の鎖国当時に西洋各国で唯一貿易をしていたオランダから日本にビールがもたらされ、江戸で盛んになっていた蘭学によってビールが世の中に伝えられたと言われています。
具体的な年月について、最も古い記録では1613年にイギリス船・クローブ号が長崎県の平戸に入港した際に積荷の中にビールが入っており、これが日本に伝わった初めてのビールと言われているようです。
また、1724年にオランダからの商船とその使節団が江戸に入府した際に将軍徳川吉宗への献上品の中でにビールがあったという記録が「和蘭問答」という文献に記録されています。
さらに、1860年にアメリカへ使節団として航海する最中に玉虫左太夫が飲んだことが航日米録に記録されています。
ビアホールができるまで
その後ペリー来航によって鎖国制度が崩壊し、開国に伴ってビールが本格的に日本で普及しはじめます。
長崎の出島でオランダの商館長ヘンドリック・ドゥーフによって1812年に日本で初めてのビールが醸造されました。
その後1853年に蘭学者の川本幸民によって、日本人によって初めて作られたという記録があります。
1869年にドイツ人のヴィーガントによって横浜外国人居留地にジャパン・ブルワリーが誕生し、1870年にアメリカ人のウィルアム・コープランドによって横浜にスプリング・バレー・ブルワリーが日本で初めてのビールの醸造・販売を開始しました。
ちなみに、後にこの2社は皆さんご存知のキリンビールになります。
1872年に大阪商人の渋谷庄三郎によって日本人による初のビール醸造と販売が行われました。
洋酒文化の発展
明治に入り、外国との物流や文化の交流が発展しました。
ウイスキーなどの蒸留酒もこの頃に輸入されたと言われており、岩倉具視使節団が持ち帰ったオールドパーと言うウイスキーを明治天皇に献上品として持参したとも言われています。
オールドパーについては「日本で初めて飲まれたウイスキー!?オールドパーの魅力を徹底解説 」で詳しく解説しています。
ビールだけでなく様々な西洋の文化が国内に持ち込まれ、ビールも例外なく富裕層の間で嗜まれるようになっていきました。
この時代からビールなどの醸造酒やウイスキーなどの蒸留酒が認知されることによって、後に大手のビールメーカーや食品メーカーの歴史が始まるのです。
日本で最初のビアホールが横浜に誕生
その後、ついに日本で初めてのビアホールが誕生します。
1899年、日本初の恵比寿ビアホールの開店や大阪麦酒会社によるビール会が開催されました。ビール会は大好評であったため、大阪麦酒は冷たいビールと洋食を提供するアサヒ軒を開店。
物珍しさに加えて手ごろな値段でビールが飲めることもあり、開店してすぐ大繁盛となりました。
その後東京市内から地方へと広がり、また一部の富裕層だけでなく庶民にも親しまれることでビールはより広がっていったのです。
アサヒビールの歴史
大阪麦酒から大日本麦酒、戦後に分割され今のアサヒビールが誕生します。会社同士の併合や戦後の恐慌など、様々な苦難を乗り越えたアサヒビールの歴史を紹介します。
大阪麦酒会社の誕生
アサヒビールの歴史は今から130年前に始まりました。
大阪・堺の酒造家である、鳥井駒吉や実業家の松本重太郎などが「大阪麦酒会社」が設立。同時期に「キリンビール」のジャパン・ブルワリー・カンパニー、「サッポロビール」の札幌麦酒会社、「ヱビスビール(当時は恵比寿ビール)」の日本麦酒醸造会社が相次いで設立され、今日まで続く大手ビールブランドの誕生が誕生しています。
西洋の文化が周知されていくにつれて、その文化をさらに広め、国内生産を可能にする動きは日本各地でみられました。
その後、アサヒビールは大阪麦酒の創業から3年目の明治25年に、大阪麦酒吹田村醸造所で初めて誕生。この吹田工場は現在もアサヒビール吹田工場として稼働中であり、形は変われど随所に以前の面影を垣間見ることができます。
アサヒビールの名前の由来
今日のアサヒビールという社名は元々ビールの名前でした。名前の由来は日出づる国に生まれたビールへの誇りと、旭日昇天のごとき発展を願って名付けられたといいます。
その後名前通り、本格国産ビールとして地元関西を中心に人気を獲得していきました。
札幌麦酒の東京進出
ビール業界では当時アサヒビールの大阪麦酒とサッポロビールの札幌麦酒、ヱビスビールの日本麦酒がトップを争っていました。
その中で、札幌麦酒が1903年に札幌工場に加えて東京工場を完成させることで東京に進出します。厳しい市場争いを制し、なんと進出して2年で業界シェア1位を獲得するに至ったのです。
大日本麦酒の設立のきっかけ
札幌麦酒株式会社の急成長によって大打撃を受けた日本麦酒株式会社(ヱビスビール)は「競争よりも団結」を打ち出し業界の再編成を提案します。
そしてなんと大阪麦酒株式会社も含めた3社合併が実現し、大日本麦酒株式会社が設立されます。その市場シェアはなんと7割にも当たったそう。
大日本麦酒株式会社は戦時中、世界中に東洋最大のビールメーカーとしてビール会社を展開していきます。今もなお中国が生産している「青島ビール」はこの時期から生産されていました。
終戦後の大日本麦酒の分割
第二次世界大終了後は過度経済力集中排除法によって、サッポロ・ヱビスのブランドを引き継ぐ日本麦酒株式会社とアサヒのブランドを受け継ぐ朝日麦酒株式会社に分割されます。
高度経済成長による東京への一極化
西日本を中心に運営していた朝日麦酒株式会社に、戦後の高度経済成長の荒波が襲い掛かります。
東京への一極化は朝日麦酒株式会社のシェア率を3位に低下させてしまい、その後のサントリーなどの他企業が全国的に進出した結果、1980年代には市場占有率は10%以下となってしまいます。
この状況を打破するため、様々なリサーチやテイストの変更が行われ、1986年にあのロングセラー商品「アサヒスーパードライ」が発売されます。
意外と若い?アサヒビールの設立
昭和の終わり頃の1989年まで朝日麦酒株式会社であり、現在の本社ビルの竣工に合わせてアサヒビールへ社名を変更しました。
大阪麦酒からの歴史は長いですが、アサヒビールとしての歴史は実は設立約30年と比較的新しいです。
代表商品「アサヒスーパードライ」
アサヒビールの数々の日本初の中、多くの商品の中やはり辛口生ビールのアサヒスーパードライが最も代表的な商品です。
長く愛される理由
1986年に発売されたアサヒスーパードライは、明確なマーケティングリサーチによって潜在顧客がどのような味を求めているのかを徹底的に追求した結果生まれた商品。そのリサーチが今も続く人気の理由の1つになっています。
コク・キレを追求した味わい
1984年~1985年に大阪と東京で味覚、嗜好調査を行い、求められているビールの味を徹底的に追求して結果、従来の重く苦味が強い味のビールより、コクとキレ味を求めているという結果にたどり着いたのだそう。
この結果を元に商品開発が進められ、現在までその味は進化しながらも引き継がれています。
販売戦略や鮮度管理
ビール製造において、世界各国の醸造所によって異なる原材料や気候、水質、製造工場の設備や従業員の習熟度は均一ではないため、どこでも同じ味と品質のビールを作ることは大変困難です。
高品質なビールを製造するために、現場の人たちが状況に応じて判断できる裁量を与えることや研究所と生産技術センター、生産部門が一体となって品質向上に取り組む環境を整えることで、同じ味と品質を実現しているのだそう。
キレ味の秘訣
キレ味の秘訣はビール製造工程にあります。
ビールの製造工程は大きく分けて「仕込み、発酵、熟成、ろ過、容器詰め」があります。
スーパードライのキレ味は発酵時に318号という酵母が、勢いよく糖からアルコールと炭酸ガスを生み出す能力が活きているのだそう。
ビールだけじゃない!アサヒビールの取り扱いラインナップ
アサヒビールは飲料業界の中でも特に激戦区と言われるビール業界で国内シェア1位を誇るビールメーカーです。
スーパードライを中心に紹介してきましたが、実は誰もが知っている商品を生産している企業でもあるので、それぞれ紹介していきます。
ビール・発泡酒・新ジャンル
アサヒのビールといえばもちろんスーパードライが大人気です。
その他にもアサヒ生ビールやTOKYO隅田川ブルーイングシリーズといったビールも人気があります。また、ビールといえば沖縄に行ったことがある方なら必ず耳にしたことはあるオリオンビールもアサヒが販売している商品です。
その他、アサヒは新ジャンルにも力を入れています。
クリアアサヒをはじめとし、最近ではアサヒザリッチが発売されました。アサヒザリッチは、ビールの味わいが高い完成度で再現されているので安値で楽しみたいという方はぜひ試してください!
発泡酒では、スタイルフリーや本生ドラフト、ノンアルコールではドライゼロなどがあります。
チューハイ・缶カクテル
アサヒは様々なチューハイを販売しています。
もぎたてSTRONGや贅沢搾り、SKY BLUE、辛口淡麗ハイボール、カルピスサワーなど多くの種類がありユーザーから支持があります。
ノンアルコール商品にも力を入れており、アサヒノンアルやゼロカクがあります。
特にゼロカクはフルーティーで甘い味わいなので女性を中心に人気があります。
焼酎
アサヒの焼酎で最も有名なのは、ほのかな香りと柔らかな味わいが特徴のかのかシリーズです。
その他にも金黒や九兵衛、鹿児島県加治木町にさつま司蒸溜蔵で造っているさつま司といったブランドもあります。
ワイン
世界の様々な国からワインを輸入・販売しています。
山梨県にサントネージュワインというワイナリーを運営しており、ワインの製造にも力を入れており、数々の受賞歴もあります。
なかでも「かみのやま」シリーズは複数回受賞の経歴もあり国内外から評価されています。
ウイスキー・ブランデー
日本のウイスキー市場はアサヒとサントリーで市場の約9割を占めると言われており、アサヒはサントリーについで大きなシェアを誇っています。
アサヒのウイスキーといえばNHKの連続TVドラマ小説「マッサン」で有名な竹鶴政孝氏が創業したニッカウイスキーを販売しています。
ニッカウイスキーといえばブラックニッカシリーズに加えてジャックダニエルや竹鶴、余市などが人気の商品で、近年のウイスキーブームで品薄になってしまう銘柄も数多くありました。
梅酒・その他酒類
梅酒は濃醇梅酒や優しさ梅酒、ダイヤ梅酒があります。また、「おばあちゃんが作った昔ながらの梅酒」がコアなファンから人気を獲得しています。
アサヒビールならではの取り組み
様々な国内初に挑戦してきたアサヒビール。今までにない斬新なキャンペーンや商品で、常に競合他社との差別化を測っています。以下では、今もなお続いているアサヒビールの取り組みの一部を紹介します。
工場直送キャンペーン
アサヒは「ビールは出来立てがうまい」のキャッチコピーをもとに、アサヒスーパードライ鮮度実感パックを製造後3日以内で工場から数量限定で工場から直送するキャンペーンを行っています。
ビールは生鮮食品と同様に瓶や缶に詰められた直後から時間が経つほどに品質が劣化してしまい、温度や保存場所・方法を工夫しても劣化は避けられません。つまり、出荷されて時間が経っていないほどビール本来の味を楽しむことができるのです。
発売カレンダーを見てみると、現状2021年の3月までキャンペーンを行う予定なのでぜひ応募してみてはいかがでしょうか?
数量限定ですが、通常のスーパードライとは一味も二味も違った味わいが楽しめること間違いなしです。
季節限定品
春夏秋冬でラベルデザインの変更や、限定商品もアサヒはリリースしています。季節感のあるデザインは見るだけで特別な気分になれますし、夏には暑い日にぴったりの商品も発売しています。
酒類以外の代表的な事業について
アサヒビールはアサヒグループホールディングス株式会社の酒類事業を担う中核企業です。酒類は全体の約4割と、大きな比重を占めています。
アサヒグループホールディングスはその他にも飲料事業や食品事業、国際事業と展開しており、ここでは馴染みの深い飲料事業や食品事業について紹介します。
飲料事業
飲料事業はアサヒ飲料株式会社が中核企業となっています。アサヒ飲料の商品は誰もが1度は飲んだことがあるような有名商品が多く販売されています。
飲料事業はアサヒ飲料株式会社が中核企業となっており、様々な商品を展開しています。
炭酸飲料
炭酸飲料は「三ツ矢サイダー」シリーズと「ウィルキンソン」シリーズが中心的な商品です。
ウィルキンソンはソフトドリンクとしても、お酒の割り材としても重宝され、実際にウィルキンソンを使用したハイボールが発売されています。
BARなどの本格的な場所でも使われることが多いです。
コーヒー
コーヒーは「ワンダ」シリーズが代表的な商品となっています。その他にも、ドトールのカフェオレなどが発売されています。
乳性・乳酸菌飲料
アサヒ飲料の代表商品「カルピス」シリーズを発売しています。カルピスといえば100年以上の歴史があり、多くの人の愛されてる商品です。カルピスサワーとしてお酒とコラボもしており、女性を中心に人気を博しています。
その他にはぐんぐんグルトや味わいメロンクリームソーダなどが販売されており、幅広い年代に支持されています。
お茶飲料
アサヒ飲料のお茶といえば新垣結衣さんがTVCMをやっている大ヒット商品の「十六茶」シリーズがあります。
その他にはロイヤルミルクティーやなだ万監修シリーズなども販売されています。
水
アサヒ美味しい水シリーズが発売されています。
人にやさしく、自然のおいしさを安心して味わうことができるナチュラルミネラルウォーターとなっています。
スポーツ飲料・健康飲料
スポーツ飲料ではクリアな後味とカロリーオフで、スピーディーな水分補給に適しスポーツウォーターのH2Oがあります。
健康飲料は幅広く展開しており、三ツ矢サイダーやカルピスといったブランドの特定保険食品、トクホや機能性表示食品に加えてドデカミンも販売しています。
果実・野菜飲料
果実・野菜飲料は60年以上磨かれ続けられ、すっきりゴクゴク味わえる果実飲料の「バヤリース」シリーズがあります。
また、素材にこだわった果実本来の味わいを楽しむことのできる「Welch」シリーズも販売しています。
その他飲料
その他の飲料でも様々な商品を展開しています。
「バンホーテンココア」や「お汁粉」、「コクうまコーンポタージュ」「ホットレモン」と多くの人に愛され続けられる商品となっています。
食品事業
食品事業はアサヒグループ食品株式会社が中核企業となっています。
実はアサヒは食品事業も展開しており、
・タブレット・菓子
・健康食品
・サプリメント/指定医薬部外品
・乳幼児用ミルク
・ベビーフード、乳幼児用品
・フリーズドライ食品
・食品原料
・スープ・シニア・スキンケア
と多岐に渡ります。
代表商品は「ミンティア」や「クリーム玄米ブラン」「一本満足」シリーズ、「ディアナチュラ」などがあります。
まとめ
アサヒはスーパードライはもちろん、様々な酒類や飲料・食品事業で多くのヒット商品を世に送り出してきました。
特にスーパードライは徹底した品質管理によって、世界中どこでも同じ味、品質を楽しむことができます。
また、アサヒは様々な挑戦をしてきた企業でもあります。
工場直送のようにユニークなものあるので、動向を定期的にチェックすることでよりお酒を楽しめるでしょう。
合併や戦時後の分割など、日本の歴史と共に様々な苦難を乗り越えたアサヒだからこその商品やサービスに今後も期待が高まります。