かつては「意識の高い人が飲むワイン」といったイメージもあったオーガニックワイン。しかし最近では、オーガニック農法を採用する生産者も、オーガニックワインの消費量もどんどん増加しています。
オーガニックワインの見本市「ミレジム・ビオ」(Millesime Bio)が2019年に発表したレポートによれば、世界のオーガニックワイン消費は2023年までに10億本を突破する勢いなのだそう。ワイン選びにおいて、「オーガニックであることはもはや当たり前」という時代が近いうちに訪れるかもしれません。
今回の記事では、世界中で注目が高まっているオーガニックワインをテーマに、基本的な知識を解説し、おすすめワインをご紹介します。「ビオロジック」「ビオディナミ」など、「オーガニック」と間違えやすい用語についてもわかりやすくご説明しますので、ぜひ参考にしてください。
オーガニックワインの基礎知識
オーガニックワインとは?
オーガニックワインとは、広義には「オーガニックぶどう」から造られるワインのことです。
オーガニックぶどうとは、化学肥料、農薬、除草剤などの合成化学物質を使用せず、遺伝子操作や放射線処理をおこなわないことを原則とする「オーガニック(有機)農法」によって栽培されたぶどうのこと。堆肥や緑肥などの自然由来の肥料を活用したり、殺虫剤代わりにハーブを使用したりして育てられています。また、ボルドー液などの昔ながらの農薬は、オーガニック農法でも例外として使用が認められています。
EUでは、2012年にオーガニックワインの醸造規定が定められ、栽培方法以外にもルールが定められることとなりました。その中では、醸造過程における保存料や添加物の量に制限が設けられたのです。
しかしこの規定ができる以前から、オーガニックワインの生産者の多くは、各国が定める「オーガニックワイン憲章」に従い、EUの新規定よりもさらに厳しいワイン造りをおこなってきました。つまり、EUの新規定はむしろ規制緩和として働いたのです。
その結果、工場でも「オーガニックワイン」と名のつくワインを生産できるようになり、マーケティング目的にオーガニックを謳ったワインが大量生産されることになりました。よって現在のオーガニックワイン界は、玉石混交の様相を呈しているのです。
「ビオロジック」「ビオディナミ」との違い
オーガニックワインは、「自然派」という言葉と結びつきがち。しかし「自然派」と呼ばれる農法やワインの造り方は、決して一様ではありません。
以下では、「オーガニック農法」や「オーガニックワイン」と混同しやすいいくつかの用語を簡単に解説します。
ビオワイン
「ビオワイン」には、きちんとした定義がありません。現状では、主に有機栽培されたぶどうで造ったワインのことを表す言葉として使われます。
ただし、EUでは「BIO」もオーガニックとして規定されています。したがってEUで「ビオワイン」を名乗るためにはオーガニック認証が必要になります。
一方で、日本には正確な規定がないので、きちんと基準を満たして認証を受けたビオワインと、自主申告のビオワインとが混同されやすい状況になっています。
ビオロジック農法
「ビオロジック農法」は、「オーガニック(有機)農法」とほぼ同じ意味の用語。
つまり、化学肥料や農薬、除草剤など質を使用せず、遺伝子操作や放射線処理をおこなわない農法のことを指します。
ビオディナミ農法
「ビオディナミ農法(Biodynamie)」は、ドイツの神秘思想家で教育者のルドルフ・シュタイナーが提唱した理論にもとづく農法です。英語では「バイオ・ダイナミック(Bio-Dynamic)農法」と呼びます。
オーガニック農法のうちの1つと捉えることが可能ですが、ビオディナミの場合は天体の動きまでを栽培方法に反映させます。種まきや収穫には、星の位置を記したカレンダーを利用するのだそう。
またビオディナミ農法では、使われる肥料も特徴的。たとえば「牛糞やタンポポを牛の角に詰め、土中で寝かせたもの」などが使用されることもあるのです。
リュット・レゾネ
「リュット・レゾネ(lutte raisonnee)」は、直訳すると「合理的な対策」。化学肥料・農薬・除草剤などを「できるかぎり」使わない農法を指す語です。これらの物質を完全に使わないオーガニック農法と比べると、少し規制の緩い農法だと言えます。
「リュット・アンテグレ(lutte integree)」や「サスティナブル農法(Sustainable agriculture)」も、「リュット・レゾネ(lutte raisonnee)」と同様の意味で使われることが多い言葉です。
オーガニック転換中
従来のぶどう栽培からオーガニックワインとしての認定基準を満たす栽培方法への転換は、すぐには完了しません。オーガニック農法までの転換に要する期間は、認定機関によって3年間と定められています。
この転換期に造られるワインのことを、「オーガニック転換中(in conversion)」と呼びます。
オーガニックワインの認証
上でご紹介したEU以外にも、さまざまな団体がオーガニック認証をおこなっています。認証機関による認定を受けたワインのラベルには、認証マークが付いています。ここでは、代表的な認証マークをご紹介します。
代表的なオーガニック認証マーク
ユーロリーフ
EUの規定に沿って生産されたオーガニック食品に表示されるマーク。
2012年以降、各国独自の有機認証マークに替わって使われるようになったので、目にする機会も多いのではないでしょうか。ラベルには、認定機関のコード番号と原材料の栽培地も記載されます。
エコセール
エコセール(Eccocert)は、フランス農務省によって1991年に設立された、世界最大のオーガニック認証機関です。
ワインについては、土壌検査などの細部にまで及ぶ厳しい検査項目が定められています。
AB認証
フランスで1981年に定められたオーガニック農法の規定に即したものに表示されるマークです。原材料の95%以上が農薬・化学肥料・添加物を一切用いずに作られていること、EU圏内で生産・加工されたこと、少なくとも3年以上のオーガニック農法を実施していることが条件です。
USDA
アメリカ農務省(USDA)によるオーガニック認証です。ワインについては、栽培と醸造の両面で細かい規定が設けられています。
Demeter
Demeter(デメテール)は、ビオディナミによるワインを認証しているドイツの機関。
このマークがあるワインは、ビオディナミ農法によって栽培されたぶどうを使っています。
有機JAS
日本のオーガニック認証マークです。天然物質あるいは化学的処理をしていない天然物質由来のものを肥料や農薬として使用すること、禁止されている化学合成農薬・肥料などに汚染されるリスクがないこと、遺伝子組み換え種を使用していないことなどが認証の条件です。
国内生産か輸入かを問わず、日本国内で「オーガニックワイン」としてワインを販売するにはこのマークが必要です。ただし輸入ワインに関しては、外国語で「Organic」や「Bio」と表示されていても、日本語に訳されていなければ、有機JASマークがなくても問題ありません。
したがって、輸入オーガニックワインには有機JASマークのないものも多く見られます。
認証マークがないオーガニックワインもある
認証機関からのオーガニック認定を受けたワインは、もちろんオーガニックワインです。しかし、オーガニックな農法や醸造法で造られたワインのすべてが、機関からの認証を受けているというわけではありません。つまり、「認証マークはないけれど、実質はオーガニックワイン」というワインもあるのです。
オーガニック認証を受けるには、少なからぬコストがかかります。また、自分のこだわりにもとづいてワイン造りをしているのだから、認証などは必要ないと考える生産者もいます。こうした事情から、オーガニックな造り方をしていても認証マークのないワインがたくさんあるというわけです。
認証マークのないワインにも、たいへん優れたものが数多く存在します。この記事でご紹介するワインの中にも、認証をうけていないオーガニックワインがあります。こうした未認証のオーガニックワインは、造り手について学ぶことで発見できることが多いので、これからもぜひ生産者についていろいろと調べてみてください。
オーガニックワインの特徴
オーガニックワインと言っても品種や産地、造り手はさまざま。「オーガニックワインはすべてこういう味がする」と言えるものはありません。
しかし、多くのオーガニックワインはぶどうのポテンシャルを最大限に活かすように造られるので、凝縮した果実味を持っています。また、ハーブやスパイス、樹木や土、そして出汁のようなニュアンスがあるものも多く、総じて複雑な旨みを伴う傾向にあります。
単にフルーティーなだけではない、重層的な味わいをワインに求めるなら、ぜひオーガニックワインの世界を探求してみてください。
厳選!おすすめ「オーガニックワイン」ランキングTop10
ここからは、筆者がおすすめするオーガニックワインを10本ご紹介します。「ビオロジック」や「ビオディナミ」で造られたワインも含めて、オーガニックな製法を用いているワインを広く選びました。
日本で手に入りやすいワインをセレクトしていますので、ぜひいろいろな味わいを試してみてくださいね!
第10位:リュリー・ブラン/ジョゼフ・ドルーアン
まず最初にご紹介するのは、言わずとしれたフランスの銘醸地ブルゴーニュで造られる白ワイン。品種はシャルドネです。
ドルーアンは、その自社畑において1990年から有機栽培を始め、その数年後からビオディナミ農法に移行したという造り手。
ホワイトゴールドの輝かしい色調。柑橘類や黄桃、トロピカルフルーツの果実感とアーモンドの香ばしさが、繊細でフレッシュな香りと味わいを形作ります。
時間が経つにつれて出てくる、フローラル系の香水のようなニュアンスも魅力的。変化を楽しみながらゆっくり味わいたいですね。
第9位:蔵ルージュ/ピエール=オリヴィエ・ボノーム
続いて、フランスのロワール地方で造られる赤ワイン「蔵ルージュ」をご紹介。ビオディナミ生産者からぶどうを買い付け、ノンフィルターで仕上げています。
ヴィンテージによって多少ブレンドに違いがありますが、メインの品種はガメイ。ボージョレ・ヌーボーと同じ品種ですが、造られる場所が異なるので味わいのニュアンスも変わります。
いちごキャンディーやチェリーのジャム、バラのような香りに、少しの青さが加わるのが特徴。
まるで南仏のシラーのような濃厚さがありますが、フレッシュな酸による若さと軽快さも感じられる面白いワインです。
第8位:ル・マゼル・キュヴェ・ミアス/ドメーヌ・マゼル
フランスのローヌ地方南部に位置する小さな村で造られる、やや甘口の白ワイン「ル・マゼル・キュヴェ・ミアス」。使われているぶどう品種は、ヴィオニエです。
造り手のドメーヌ・マゼルでは、化学肥料や亜硫酸、培養酵母などを使わない自然な造り方を1997年から開始。2002年にはすべての畑がビオロジック農業の認可を受けました。
100%天然酵母で発酵させ、酵素・ビタミン・亜硫酸は無添加。清澄や濾過もおこなわずに、できるだけ自然に造られたワインは、驚くほど香り豊か。とろりとした甘さを感じさせる香りと、フレッシュな酸を伴う果汁感、乳酸のような丸みとほどよい塩味がバランス良く同居しています。
こちらのワインは、できれば長期熟成させるのがおすすめ。熟成後は、暑い時期によく冷やして飲んでも美味しいですよ。
第7位:アモーレ・エテルノ・オーガニック・ロッソ/レ・ヴィッレ・ディ・アンタネ
シェイクスピアの名作『ロミオとジュリエット』ゆかりの地、イタリア・ヴェローナで誕生した“愛のワイン”「アモーレ・エテルノ・オーガニック・ロッソ」。
「永遠の愛」という名を冠したこのワインには、造り手による生まれ故郷への愛が込められているのだとか!
レ・ヴィッラ・ディ・アンタネは比較的新しいワイナリーですが、有機栽培に力を入れ、最新技術を活用しながら高品質でコストパフォーマンスに優れたワインを生産しています。
ヴェネト州の土着品種コルヴィーナが主体。使われているぶどうはすべて有機栽培で育ったもので、フレッシュな果実味と森の香り、スパイス感が楽しめます。素敵な名前のワインなので、プレゼントにも最適です。
第6位: アンヌマリー・コンテッス・カヴァ・ブリュット・ナチュレ・レセルバ/カステル・ダージュ
こちらは、スペインの地で、シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵で造られるスパークリングワイン「カヴァ」です。カヴァは、コストパフォーマンスに優れた泡ワインとして、日本でもかなりポピュラーになってきましたね。
生産者のカステル・ダージュは、「土と生きる」という哲学のもとで自然栽培・自然醸造をおこなっている人物。太陽の恵みを受けて自然に育ったぶどうからは、たっぷりの果実味と繊細な味わいを持つカヴァが生まれます。
輝くレモンイエローの色調に、きめ細かい泡が立ち上ります。青りんごやライムのような爽やかな香り。なめらかな口当たりのあとに上品な酸が感じられ、余韻にかけてリッチに広がっていきます。
カヴァらしい美味しさをじゅうぶんに表現しているキュヴェです。
第5位:プードル・デスカンペット/ル・カソ・デ・マイヨール
フランスのルーション地方、スペイン国境にほど近いバニュルスという場所で造られた赤ワイン「プードル・デスカンペット」。ムールヴェードル、カリニャン、グルナッシュなどの南仏を代表する品種が使われています。
自社畑は、野生のハーブなどの低木草がびっしりと茂る場所にあります。周囲は雑木林などで隣と遮断されていて、病気などの恐れがない理想的な環境。その畑でビオロジック農法を実践し、自然酵母のみで発酵させ、亜硫酸をいっさい添加せずにワインを仕上げているのが特徴です。
プラムを思わせる甘酸っぱい果実感に、森のようなニュアンス、そして血液を思わせるミネラル。果実と大地のエネルギーが溢れ出す、印象的なワインです。
第4位:レア・ピノ・ノワール/セレシン・エステイト
ニュージーランドの銘醸地、マールボロで造られる赤ワイン「レア・ピノ・ノワール」。品種はピノ・ノワールです。
造り手のセレシンはニュージーランドビオのパイオニア。ワイン評論家のジャンシス・ロビンソン氏は、ニュージーランドのトップ4生産者のひとつにセレシンの名を挙げています。
ピノ・ノワールというと軽めの味わいを想像される方もいらっしゃるかと思いますが、限りなく自然に近い環境で造られるこちらのワインは、しっかりとしたボディを持っています。
凝縮感とエレガンスが両立した味わいを、ぜひ楽しんでください。
第3位:ゲヴュルツトラミネール・フルシュタンチュム・グラン・クリュ/ドメーヌ・マルク・テンペ
「ゲヴュルツトラミネール・フルシュタンチュム・グラン・クリュ」は、フランスのアルザス南部で貴腐菌のついたゲヴュルツトラミネールを使って造られる、やや甘口の白ワインです。
マルク・テンペはアルザスビオの第一人者。1993年からビオロジック、1996年からビオディナミに取り組んでおり、なるべく自然な環境を整えて、畑のぶどうが自身の力で育つのをそっとサポートしています。
このワインには、南向き斜面の畑で育った樹齢50年以上のぶどうを使用。アルザスはフランスの中でも冷涼な産地ですが、夏は目玉焼きが焼けるほど暑いというこの畑では、ぶどうがしっかりと熟します。
外観は淡いゴールド。グラスに注ぐと、カスタードクリームやはちみつを思わせる華やかで甘やかなアロマが溢れます。口に含むと広がる、焼きリンゴのような甘くて香ばしい味わい。そこにかすかな苦味と塩味が加わり、複雑でリッチな美味しさがアフターにかけて長く続きます。
第2位:エンゲル・ガルテン・プルミエ・クリュ/マルセル・ダイス
フランスのアルザスで造られる白ワイン「エンゲル・ガルテン・プルミエ・クリュ」。現代アルザスワインの頂点といわれるマルセル・ダイスの、プルミエ・クリュを代表するキュヴェです。
使用されている品種は、リースリング、ピノ・グリ、ブーロ、ミュスカ、ピノ・ノワール。通常の栽培方法と異なり、さまざまな品種を同じ畑にごちゃまぜにして「混植」しています。したがってこのワインは、品種特性というよりも、土地の個性、テロワールを表現していると言えるでしょう。
「天使の庭」という名を冠したこのワインは、造り手本人の言を借りると「複雑すぎて短い文章で描写することができない、まるで人間のようなワイン」。黒ブドウのピノ・ノワールも含んでいるため外観はオレンジがかったゴールド。
熟した果実とナッツ、蜜のニュアンス、そしてミネラルなどが織りなす優しくも重層的な味わいは絶品です。
第1位:サヴィニー・レ・ボーヌ・レ・ゴラルド/ドメーヌ・ド・シャソルネイ
第1位としてご紹介するのは、フランスのブルゴーニュで造られるピノ・ノワール「サヴィニー・レ・ボーヌ・レ・ゴラルド」。造り手は、自然派ワイン界を牽引するドメーヌ・ド・シャルソネイです。
1999年に事故で非業の死を遂げた親友の畑を引き継いで、ドメーヌによる100%管理で育てたぶどうを使用する同氏。新樽を多く使用し、ぶどうのポテンシャルが許す限り樽熟成をおこなっています。
ラズベリーやブルーベリーの果実感、芍薬のような花の香り、わずかに青いバジルの香りと樽熟成由来のヴァニラが心地よく香る1本。味わいは複雑で、梅のような酸味と鰹出汁のような旨み、白胡椒やシナモンのようなスパイス感、そしてきめ細かく心地よいタンニンが感じられます。
ピュアさと力強さを併せ持ち、大地のエネルギーを感じさせる魅力的なピノ・ノワールです。
ぶどう本来の美味しさを楽しもう
近年、ますますその存在感を増しているオーガニックワイン。世界中の産地で造られており、気候や土壌、生産者の哲学によって香りや味わいはさまざま。個性豊かなワインがたくさん生まれており、日本でも多くのオーガニックワインを味わうことができます。
この記事を参考に、ぜひいろいろなオーガニックワインを飲んで、ぶどう本来のピュアな味わいや生産者の技術、ワインという飲み物の多様性を楽しんでみてくださいね!