ドイツと言えば「ビール大国」。そんなイメージを抱きがちですが、ドイツではビールだけでなく、美味しいワインもたくさん作られています。
少し前まで、日本に入ってくるドイツワインは「甘めの白」がほとんどでしたが、今では多種多様なスタイルのドイツワインを楽しむことができるようになりました。たいへん喜ばしいことなのですが、こうして選択肢が増えると、かえって悩んでしまうこともありますよね。
そこで今回は、ドイツワインの基礎知識に加えて、ワインエキスパートである筆者がセレクトした「ドイツワインのおすすめランキング10選」をご紹介します。白・赤・泡、辛口から極甘口まで幅広くセレクトしましたので、ぜひ参考にしてください。
ドイツワインの特徴とは?
ドイツは、世界の数あるワイン産地の中でも最北部に位置しています。日照時間が短く冷涼な気候のおかげで、いきいきした酸とミネラルの旨味、そして気品を感じさせるようなワインが生まれます。
主なワイン産地
ドイツのワイン産地は大きく分けて13個。その中から、特に有名な産地を取り上げてご紹介します。
リースリングが有名な産地
モーゼル(Mosel)
3世紀頃には既にワインが造られていたという、ドイツ最古の産地「モーゼル」。ドイツ西部に位置します。
植えられているのは白ワイン用ブドウがほとんどで、その中でも特に多いのが「リースリング」。モーゼルのリースリングは、エレガントで洗練された味わいが魅力です。
ラインガウ(Rheingau)
モーゼルより南、ライン川沿いに位置する産地「ラインガウ」。同じリースリングでも、モーゼルと比べてより酸味の効いた辛口スタイルに造られる傾向があります。
こちらも伝統的な産地で、数百年続いている醸造所がいくつもあるほどです。
規模の大きい産地
ラインヘッセン(Rhinhessen)
ラインヘッセンはドイツ中央南寄りに位置する、国内最大の産地。なだらかな丘陵地帯が広がっていて、気候は比較的穏やかです。白ワイン用ブドウの栽培が多く、リースリングやミュラー・トゥルガウ、ジルヴァーナーなどが植えられています。
ファルツ(Pfalz)
ドイツで2番目に大きな産地がファルツで、ラインヘッセンの南に地続きでつながっています。白ワイン、特にリースリングが有名ですが、最近ではドルンフェルダーなどの赤ワインの生産も増えてきました。赤ワインの生産はファルツがドイツ最大規模です。
ドイツワインのラベルの読み方
ここでは、お店でドイツワインを選ぶ時に役立つ「ラベルの読み方」をご紹介します。
甘辛度の確認
ドイツワインを買うとき「甘口なのか、辛口なのか」は以下の表記で判別しましょう。
・Süß(ズース):甘口
・Lieblich(リープリッヒ):中甘口(まろやかな甘さ)
・Halbtrocken(ハルプトロッケン):中辛口(セミドライ)
・Trocken(トロッケン):辛口
※スパークリングワインの表記は若干異なります。
「Q.b.A」と「Q.m.P」
ワインの名前に「Q.b.A」や「Q.m.P」の表記があったら、それはワインの属するカテゴリを意味しています。それぞれ、以下のようなルールがあります。
Q.b.A(クヴァリテーツヴァイン)のルール
Q.b.A(クヴァリテーツヴァイン)には様々なルールが定められています。代表的なルールとしては、
・定められた13の生産地域で採れたブドウを100%使う
・収穫された地域で醸造する
・規定の糖度を上回る果汁で造る
・アルコールを補うための補糖をしてもよい
上記のようなものが定められています。
Q.m.P(プレディカーツヴァイン)=「肩書付きクヴァリテーツヴァイン」
Q.m.P(プレディカーツヴァイン)は、“肩書付きクヴァリテーツヴァイン”という意味を持ちます。クヴァリテーツヴァインのルールに加えて、
・補糖が許されない(=果汁の糖度がじゅうぶんに高い必要がある)
・独自の肩書き制度がある
といった決まりが定められています。
プレディカーツヴァインの肩書き
上記の通り、「プレディカーツヴァイン」にだけ独自の肩書き制度があります。ワインに使うブドウ果汁の糖度などにより、下記の6段階に分けて表記されます。
・Trockenbeerenauslese(トロッケンベーレンアウスレーゼ)
・Eiswein(アイスヴァイン)
・Beerenauslese(ベーレンアウスレーゼ)
・Auslese(アウスレーゼ)
・Spätlese(シュペートレーゼ)
・Kabinett(カビネット)
上から、等級が高い順番に並んでいます。
注意すべきなのは、“この肩書きは甘口・辛口とは関係ない”ということ! このポイントさえ忘れなければ、ドイツワインの表記はややこしくないはずです。
専門家が厳選!おすすめドイツワインTop10
それではいよいよ、ランキングの発表です。
10位:カール・エルベス/ユルツィガー・ヴュルツガルテン・リースリング Q.b.A ファインヘルプ
1967年に設立されたモーゼル地方の醸造所、カール・エルベスによる白ワイン。品種は「リースリング」で、甘辛度は「ファインヘルプ(feinherb)」です。
「ファインヘルプ」とは「洗練された辛口」を表す言葉。この表現は近年、造り手たちの間でちょっとしたブームになっています。ファインヘルプは「トロッケン」や「ハルプトロッケン」とは異なり、法律で定められたものではありません。したがって、残糖量は造り手の判断に任されているわけですが、一般的には少し甘めのトロッケンからハルプトロッケンに至るまでの味わいを持つものが多いようです。
カール・エルベス当主のシュテファン氏も、この「ファインヘルプ」が好みだとか。
誰にでも飲みやすく、普段の食事にも合わせやすいこちらのリースリングは、ドイツワイン初心者にもおすすめです。
9位:クロスター醸造所/アマリエ・ナーエ・ドルンフェルダー Q.b.A.
次にご紹介するのは、甘口の赤ワイン。
近年注目されている「ドルンフェルダー」という品種で造られたこちらのワインは、ただの甘口ではありません。ほどよい酸味とジューシーな果実味が感じられる、心地よい甘口なのです。
クロスター醸造所は、ファルツ中心部の近くにある7つの村が集まって生まれた協同組合。優秀な技術者たちが生産者元詰でリリースするワインは、クオリティが高いのにお手頃価格で、コストパフォーマンス抜群です。
甘みがあって軽やかな赤なので、「苦くて重い赤が苦手」という方にも飲んでいただきやすいはず。ハートのラベルがかわいらしく、容量も500mlと少なめなので、ちょっとしたプレゼントにもぴったりですね。
8位:リンゲンフェルダー/ゲヴュルツトラミナー・ヘア・ラベル Q.b.A トロッケン
エキゾチックな香りが魅力的な品種「ゲヴュルツトラミナー」で造られた、辛口白ワインです。
リンゲンフェルダーは、ファルツ地方の生産者。ワイン評論家ロバート・パーカーの著書において5つ星を与えられるなど、その実力はお墨付きです。
そしてこちらのゲヴュルツトラミナーは、ワイン漫画『マリアージュ ~神の雫 最終章~』に登場したことでも有名。主人公の雫は、このワインの美味しさを「南国の果物やライチ、タンポポのように柔らかい酸味と甘みが鼻腔をくすぐる」「一口飲むと、エレガントでドライ、後味に海の潮のようなミネラルが感じられる」などと表現しています。
ラベルには、ブドウを加えて夕食へと急ぐ野うさぎが描かれていますが、それはこのワインが夕食にぴったりだということを表しているのだそう。
中華をはじめとするエスニック料理全般と相性が良いのが特徴。ワイン×中華の、素敵なマリアージュを楽しんでみてください。
7位:ラッツェンベルガー/バハラッヒャー・リースリング・ゼクト b.A
「ドイツの泡」の美味しさ、ご存知ですか? こちらは、リースリングで造られた「ゼクト(Sekt)」。つまりスパークリングワインです。
実はこのワインも、『神の雫』に登場しています。美味しいワインを知り尽くす大会社の役員たちを、あっと驚かせるようなスパークリングワインを探して、主人公がたどり着いたのがこちらのゼクトだったのです。(シャンパーニュでも、クレマンでも、フランチャコルタでもなく!)
シャンパーニュと同じ「瓶内二次発酵」で造られており、熟成期間はなんと4年以上。その味わいは優しく柔らかく、『神の雫』の主人公いわく「天使の羽ばたきにも似て、レースのカーテンから差し込む朝の光のよう」なのだとか。
生産者は、最優秀醸造家に選ばれた経歴を持つラッツェンベルガー醸造所。ミッテルラインに位置する崖のような急斜面の畑で、ブドウの栽培から収穫までのすべてを手作業で行っています。卓越した技術と丁寧な手作業が生み出すエレガンスを、どうぞご賞味あれ。
6位:ハンス・ヴィルシング/ミュラー・トゥルガウ Q.b.A. トロッケン
ころんとした丸くて平たいボトルが特徴の「フランケンワイン」。
フランケンワインは、その名の通りフランケン地方で生産されるワインのこと。かわいらしい見た目とは裏腹に、味わいはキリリと引き締まった辛口です。
中でもこちらは、フランケン地方で最もたくさん栽培されている「ミュラー・トゥルガウ」を使った白ワイン。辛口とは言え、洋梨や桃のようなジューシーな果実味が華やかで、酸味とのバランスも抜群です。この素晴らしいバランスは、フランケンにおける最良生産者のひとつ、ハンス・ヴィルシングの醸造技術だからこそ為せる技だと言えるでしょう。
親しみやすい味わいのこちらのワインは、気取らない普段のお料理にも合わせやすいのが嬉しいポイント。豊かな香りを持っているので、スパイスを効かせた料理とも相性が良いですよ。
5位:ハインフリート・デクスハイマー/ヴァインハイマー・キルヒェンシュトゥック・フクセルレーベ・トロッケンベーレンアウスレーゼ
続いておすすめするのは「極甘口」のワイン。世界三大貴腐ワインのひとつ、「トロッケンベーレンアウスレーゼ」です。
こちらのワインは、ラインヘッセン地方で造られたもの。ラインヘッセンには低い丘がいくつも点在し、その間のくぼみに冷気が流れ込みやすくなっています。それによって気温が氷点下まで下がり、上質な甘口ワインを造れる環境が生まれるのです。
ハインフリート・デクスハイマーはそんなラインヘッセンの地で、甘口ワインのスペシャリストを名乗っている優良生産者です。極甘口ワインを生産者元詰でリリースしているのは、村に数ある生産者の中でもこの一軒だけ。専門性に裏打ちされた確かな美味しさが詰められたワインだと言えるでしょう。
「フクセルレーベ」という品種は、品質や収穫量が不安定で、収穫のタイミングを図るのも極めて難しいとされています。そのため近年は多くの生産者が栽培をやめてしまい、貴重な品種なのです。
そんな難しい品種を見事コントロールして造られたこのトロッケンベーレンアウスレーゼ。食後のデザートや、ブルーチーズにはちみつをかけたものなどと一緒に味わい、至福の時間を楽しみましょう。
4位:ヴィラ・ヴォルフ/シュペートブルグンダー Q.b.A. トロッケン
ファルツ地方で1840年から続いてきた名門、J.L.ヴォルフ醸造所。その経営を、モーゼルの著名な醸造家エルンスト・ローゼン氏が引き継ぎ、プロデュースしているのがこちらのシュペートブルグンダーです。
「シュペートブルグンダー」とは「ピノ・ノワール」のドイツ名。ドイツはブルゴーニュのように冷涼な気候を持つため、この品種でクオリティの高いワインが造れるのです。
冷涼なドイツで造る赤ワインはともすると淡麗になってしまいがちですが、こちらのシュペートブルグンダーではしっかりした果実味。レーズンやドライいちじくのような凝縮感あるフルーツのニュアンスに、ドイツ特有の美しい酸味が寄り添って、心地よいバランスを築きます。
コストパフォーマンスもよく、ドイツワインは白しか飲んだことがないという方にも気軽に試していただきたい辛口赤ワインです。
3位:G.A.シュミット/ツェラー・シュワルツ・カッツ・プリカッツ Q.b.A.
おしゃれでかわいい黒猫のラベル。もしかすると、どこかで見たことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。こちらは、やや甘口の白ワインです。品種は「リースリング」と「ミュラー・トゥルガウ」が半分ずつ使われています。
やわらかい口当たりと、爽やかで心地よい香りは、ドイツワイン初心者にもぴったり。実際、私が初めて飲んだドイツワインが、まさにこのワインでした。それがあまりに美味しくて、ドイツワインの世界にどっぷりハマっていったのです。
ドイツでリースリングNo.1を誇る大手生産者「グスタフ・アドルフ・シュミット」が造っているため、いつ飲んでも品質が安定しています。日本国内でも様々なお店に置かれており、価格もお手頃。とても入手しやすいドイツワインだと言えるでしょう。
ワインの名前とラベルに採用されている黒猫は、ドイツのモーゼル地方に伝わる「黒猫の座った樽のワインが最もできが良い」という伝説に由来しているそう。キュートなラベルにきれいなロイヤルブルーのボトル、そして、初心者から上級者まで誰にとっても美味しい味わい。
自分で楽しむのはもちろん、プレゼントにも大変おすすめのワインです。
2位:ベルンハルト・フーバー/マルターディンガー・シュペートブルグンダー
再び、シュペートブルグンダー(ピノ・ノワール)のワインの登場です。今度は、バーデン地方の生産者、フーバー醸造所によって造られたシュペートブルグンダー。
醸造所を立ち上げたベルンハルト・フーバー氏は、ドイツにおけるシュペートブルグンダーの地位を引き上げたパイオニア的存在です。たとえば、現在ではドイツでも認知されている「ワインの熟成に新樽を使って深みを与える」という手法も、ほんの10年前まではほとんど誰も試すことのない奇特なものでした。そのような新しい手法にチャレンジしつづけたのがフーバー氏です。
その結果、フーバー醸造所のシュペートブルグンダーは世界各地で大好評となりました。その評判は、歴史的な銘醸地であるブルゴーニュやカリフォルニアのピノ・ノワールを押さえて、より高い評価を得たことが何度もあったほど!
こちらのワインでは、古くからシュペートブルグンダーの名産地であったマルターディンゲン村のグラン・クリュ(特級畑)で採れたブドウのみを使用。
高級ブルゴーニュと間違えそうなほど完成度の高いこの1本は、ピノ・ノワール愛好家にぜひ味わっていただきたいワインです。
1位:プリンツ/グーツ・リースリング Q.b.A. トロッケン
ランキング1位に輝いたのは、ファルツ地方の辛口リースリング。オーガニック農法で造られたワインです。
透明感があるにもかかわらず、とても豊かなボディ。ジューシーな果実の甘みを感じたと思えば、いきいきとした酸がはじけて、心地よいミネラルの旨味が広がります。
辛口のリースリングは、和食と合わせやすいのも嬉しいポイント。しゃぶしゃぶのような、あっさりしたお料理にも違和感なく馴染んでくれます。
高名な醸造家、フレッド・プリンツ氏によって造られたこちらのリースリングは、権威あるワインガイド『ゴーミヨ』や『ワインズ&スピリッツ』で高評価を獲得している1本。
辛口のリースリングが好きでいろいろな銘柄を試してきた筆者としては、こんなに美味しいワインがこの価格で味わえるなんて夢のよう! いつでもワインセラーに常駐させたいワインです。
さまざまなスタイルのドイツワインを楽しんで
今回の記事では、さまざまな個性を持つドイツワインをご紹介しました。かつてドイツワインのイメージにおいて中心を占めていた「甘い白ワイン」に限らず、美味しいワインがたくさん造られていることが伝わっていれば幸いです。
最近では、生産者の意識向上や技術革新によって、ブルゴーニュのような有名産地のワインに匹敵する高品質なワインが続々と誕生しています。
ぜひ、いろいろなスタイルのワインをお試しになってみてください。ドイツという国のイメージが、すっかり変わるかもしれませんよ。