酒場は教会やお寺に似ている。
お酒をたたえ、ときに悲しみを分かちあい、誰かの懺悔を許し合い、ともに喜びを唄う。
というと、いろんな宗教の方からお叱りを受けることでしょう。ただ酒場はそう言いたくなるくらい、人に寄り添ってくれる不思議なパワーを持っています。
お酒信者の私には聖地と呼びたいお店が多々あるけど、初心者はちょっと足を踏み入れにくいはず。女子ひとりでもふらりと入れて、酒場の魅力を感じられる立ち飲みおでん屋を紹介します。
創業70年以上の練り物屋がはじめた、立ち飲みおでんや「塚田のおでん屋さん おだし」
立ち飲みおでんや「塚田のおでん屋さん おだし」は、2019年に出来たばかり。吉祥寺に通う人は「あれ?」と思ったでしょう。
そう。ここは、吉祥寺駅すぐの商店街ダイヤ街。70年以上練り物屋さんを営む「塚田水産」の営業時間が終わった後、夜だけひっそりと営業しているお店なんです。
老舗練り物屋さんと新しい立ち飲みおでんやさんの二毛作
19時開店の「塚田のおでん屋さん おだし」は、「塚田水産」が18時に閉店するとともに内装を変えて、おでん鍋をセッティング。開店準備がはじまります。
※「塚田水産」の閉店時間により変動あり
ひっそり営業と言いつつ、開店とともにお客さんが集まります。
「前より、だいぶおでん屋さんらしくなったよね」と古くからのご常連。
実は、「塚田水産」は7年前から少し離れた場所で直営店と明かさず、おでん居酒屋を営んでいたのだそう。そのお店が、この場所に移転し、営業するようになったのだとか。前の場所は狭く、5人入れば満員の狭小店舗だったんですって。
新しいお店は明るく、店長さんは女性。老舗と新しいお店の合いの子のような雰囲気で、一見でも入りやすい。
いざ、一人呑みの始まり
ひとまず一杯目は、ゴクッと飲み干せる「プレミアムモルツ(500円/税込)」。おでん以外にもサク飲みにちょうどいい酒のつまみが揃い、どのルートでおでんに向かうか思案します。
昆布出汁のきいた「鱈白子の昆布焼き」
いただいたのは、昆布の上に白子をのせてトースターで焼き上げた「鱈白子の昆布焼き(600円/税込)」。
昆布出汁がしみ出て、蕩ける白子の旨味に奥深さを添えています。鼻から昆布の磯っぽい香りが抜けて、日本酒が欲しくなってきました。
おでん屋にきたのなら「だし割り」を
ビールを勢いよく飲みくだして、二杯目へ。
そうそう、おでん屋なら「だし割り(600円/税込)」一択。
カップ酒の銘柄は、白子にもあう八海山。出汁で割るのも忘れて、スイスイっと飲み進めてしまいそうです。
鍋をのぞき込むと、おでん鍋がぎゅうぎゅうとお出汁に浸かっています。カップ酒を片手に、悩む悩む。
練り物屋さんが作るおでんですから、練り物は必須。邪道と言われようと、ウインナーもいけるんですよね……。
いっそ「どれがいい具合に炊けていますか?」と聞いてしまうのもひとつの手です。店長さんがやさしいオレンジの海から、頃合いのおでん種をひょいひょいっとをピックアップしてくれます。美味しいお出汁もなみなみと。
塚田水産自慢の練り物が入ったおでん
「大根(200円/税込)」「こんにゃく(100円/税込)」「玉子(100円/税込)」。
おでん界のスター選手に加えて、「赤ウインナー巻き(200円/税込)」と「紅生姜天(200円/税込)」をチョイス。お酒を飲んだって、こんなやさしい食べものを食べたら健康になれる気がする。
カップ酒を飲んだら、だし割り決行
お酒を半分いただいたところで、おでん出汁を加えてもらって、出汁割りの完成!一口飲めば、心がふやけていく。
ほろ酔いになれば、ハーモニカ横丁を庭とするハシゴ飲みの猛者たちとも打ち解けていきます。
「〇〇さん、おとというちの店に寄ったの覚えてる?」「いや○軒目までは覚えてるんだけどさ……。」
周辺のオススメ店やハシゴ飲みコミュニティの話を聞いて、吉祥寺の酒飲み話はいい肴。明日になれば楽しかったということ以外、忘れちゃうんだけどね。
心の中で反芻したくなる「塚田のおでん屋さん おだし」でしっぽり1人飲みはいかが?
ジャクジャクした歯ごたえが心地いい紅生姜天、なんとなく懐かしい味のする赤ウインナー。たっぷり食べて、おなかが温まったら、ハーモニカ横丁を通って帰ろうか。
帰りの電車で、酒場は教会のよう、と言ったけど「塚田のおでん屋さん おだし」の店長さんは、お客さんとお客さんをそっと繋いでくれる天使のようなお人柄だった、と思い至りました。