次々と酒のブームが変わっていくなか、あえて「変化しない」ことを選んだにも関わらず、圧倒的な知名度と人気を保ちながら生き残ってきた日本酒が「剣菱」です。
兵庫県伊丹の地に生まれ、年の時を超えてもなお製造当初の味を保ち続け、日本の歴史のカギになる場面で登場することもしばしば。
今回はそんな「剣菱」の魅力の秘密に迫っていきたいと思います。
「剣菱」とは
「剣菱」は、兵庫県を代表する日本酒です。
日本酒としての伝統が長く、スーパーや酒屋に行けば必ずあるといっても過言ではないくらい、全国に広まっています。
「剣菱」という名前を知らなくても、剣菱のあのロゴを見たことある人は多いのではないのでしょうか?
そんな剣菱は、昔からの味を変えないことにこだわり続けています。
日本酒にも洋服やメイクと同じように時代によってトレンドがあります。
しかし、剣菱はあえて変化しない味わいを守り続けており、総じて「米の旨み」の主張が強めな日本酒を造り続けています。
「これが伝統的な日本酒か!」と感じること間違いなし。
ではなぜ剣菱はこんなにも変わらない味にこだわっているのでしょうか。
その秘密を剣菱の歴史から紐解いていきましょう。
剣菱の歴史
剣菱酒造(前:稲寺屋)は今から500年以上前の永正2年(1505年)以前に設立したといわれています。
歴史の長さ故、こんな伝説も残っています。
“昔々、土佐の山内容堂は「坂本龍馬の脱藩を許してほしい」と勝海舟から言われたとき、「これを飲んだら許してやる」と下戸であった海舟に飲ませたのが剣菱だった。海舟は頑張って飲み切ったため、山内から許しを得ることが出来た。”
そんな剣菱酒造を語るうえで欠かせないものが江戸時代の文献「二千年袖鑒(そでかがみ)」。
ここには、稲寺屋が永正2年に創業したことや、文献が出た1849年の時点ですでに345年の歴史があることなどが書かれています。
現在も使われている剣菱のロゴマークもこの文献に記されていたんだとか。
しかし、この文献の中に「剣菱」という2文字はなく、300年以上もの間、剣菱のロゴマークと共に愛されていた酒の名前は今もわかっていません。
1つ確かなことはそんなにも昔から剣菱酒造の醸す日本酒が多くの人から愛されていたということですね。
ですが、500年以上もの間生き残ってきた剣菱酒造ですが、この長い歴史の中ではいくつもの危機がありました。
例えば江戸時代に施行された「酒造統制令」。大飢饉により、日本酒造りが禁止されたのです。
他にも阪神大水害により酒造蔵が浸水してしまったり、戦争の空襲により灘の蔵が焼失してしまったり…記憶に新しい阪神・淡路大震災では7蔵が倒壊するという災害にも見舞われました。
長い歴史の中で、飢饉や明治維新、戦争や震災など様々な苦難が襲われた剣菱酒造。
そんな中でも「剣菱らしさ」を失ったことは1度もなかったのです。
「剣菱らしさ」を貫くことへの徹底ぶりが伺える、こんなエピソードがあります。
第二次世界大戦中、米不足に陥った政府は日本酒の米の量を減らし、酸味料や糖類で味を調整する「三増酒」を作るよう指導をします。
しかし当時の剣菱酒造の社長「白樫政一」は「これは日本酒ではない」と主張し製造を拒否。
政府の命で製造はするものの、他社にその酒を譲ってしまいます。
「本当に良いものしか作りたくない」という製造者の心意気と覚悟が伝わりますよね。
ここまで剣菱らしさにこだわる理由は、「家訓」にありました。
●剣菱が“変わらない製造方法”を採用する理由
500年、五家におよぶバトンを継承してきた剣菱酒造には「3つの家訓」の家訓があり、そのうちに「止まった時計でいろ」というものがあります。
流行を追おうとすると、必ず最先端の流行を一歩手前で追いかけていることになる。
それでは、時計の針と自分が一致することは絶対にない。
変わらない味、止まった時計でいれば、必ず時は巡り、ピッタリと時間が合うときがくる、必ず戻ってくる、という理念です。
長い歴史の中で止まった時計でい続け、生き残ってきた剣菱自身がこの理念を証明している存在に感じられますね。
剣菱酒造の“変わらない味”へのこだわり
剣菱酒造は、「味を変えない」ために、ゴールから逆算した酒造りを徹底しています。
勘違いしてはならないのが、「昔ながらの手作りにこだわった酒」ではなく、「剣菱の味を変えないためには昔ながらの手作りを要する」という結論になること。
例えば毎年出来の変わる米から同じ味の剣菱を造るために精米歩合を少しずつ変えているため、今では少なくなった自社精米を続けていたり、お米の旨味を存分に引き出す麹にするために現在も手作業で麹造りを行っていたり、蒸米には木製の甑を使用していたり…ここでは紹介しきれないほど、剣菱の変わらない味を実現することから逆算した製造が徹底されているのです。
剣菱酒造は「止まった時計でいる」ために、凄まじい努力と進化を続けているのです。
「剣菱」シリーズをご紹介
こだわり抜いて造られた剣菱。
ここからは代表的な剣菱シリーズをご紹介していきます!
中には期間限定しか買えないレアなものもあるので、ぜひチェックしてみてください!
剣菱
これが日本酒!と言わんばかりのきりりとした辛さ。
そうだこれは米だったのだ、とは感じずにはいられないほどの旨みが感じられる一品です。
辛さと旨みが調和し、飲みやすい柔らかな味を実現したのが剣菱。
熱燗にすることで、米の旨みがさらに引き立ち、抜群のキレ味となります。
冷やでもおいしい、燗酒でもおいしい。多彩な表情を楽しむことが出来るでしょう。
黒松剣菱
口に含んだその瞬間、「米」が感じられます。
舌触りはやわらかく、鼻に濃厚な香りが広がっていきます。
甘い...辛い...酸っぱい...それらの言葉では形容できない、ずっしりとした「旨み」。米の豊潤な味わいがず~っしり来ます。
じっくり味わうことで、潜んでいる酸味や辛さを感じるでしょう。
そして、まろやかなコクとなり、後腐れなく去っていく味わい。上品な余韻が心地よいです。
極上黒松剣菱
出典:剣菱酒造 極上黒松剣菱 箱入 1800ml [兵庫県]
まず真っ先に「米」の力強いずっしりとした旨み、そして豪快なキレ!
甘みも辛みも相互に主張してくるにも関わらず、それらが互いの個性を活かしながら絶妙に絡み合っていきます…。
ワイルドな口当たりに飲みごたえを感じられる、まさに”極上の一品”でしょう。
瑞穂黒松剣菱
瑞穂黒松剣菱は、山田錦を使用して2年以上熟成させた酒のみをブレンドして作られています。
その香りは優雅でありながら、剣菱ならではのコクのある豊かな味わいが特徴。
華やかな余韻がありながらも、しつこくない。この贅沢なやりとりは、1杯目...2杯目...と重ねるごとに楽しくなり、飲む人を飽きさせません。
瑞祥黒松剣菱
兵庫県産山田錦を、5年以上かけてゆっくりゆっくりと熟成させた古酒のみを厳選してブレンドしたのが、瑞祥黒松剣菱です。
口に含んだときの香りがとことん濃厚で、米の甘みが絡み合っていきます。
口当たりはまろやか、飲んだあとも豊潤な旨みだけが残るさまはまるで波のよう。
5年以上の時を経て熟成された、贅沢な味わいをぜひ味わってみてはいかがでしょうか?
年に一度、冬限定の商品なのでお見逃しなく!
まとめ
変わらない味にこだわり続けられてきた剣菱。
500年の時を経ても、酒好きから安定した人気を誇っています。
流行を追いかけているような今時の軽くてフルーティな日本酒も悪くないですが、めぐってくる時を待ち続け、自分たちの味を貫いている彼らにロマンを感じずにはいられませんよね。
ずっしりとした米の旨みと酒の辛さ!二つの主張が織りなす調和。
これこそが日本酒!これこそが剣菱!と言えますね。
ぜひその味を堪能してみてはいかがでしょうか。