真夏の午後にざざざっとやってくる夕立。
地面を叩くようにして夕立が通り過ぎると、火照った大地は鎮まり、ひんやりとした風が運ばれてきます。
同時に、土や、草や、木々の香りが立って、つんつん鼻を刺激します。水はこんなふうに、眠っている大自然の香りを呼び起こします。
今回も、前回に引き続きウィスキーと「水」についてのお話。
実は、たった1滴の「水」だけで、ウィスキーの香りや味わいが変わってしまうのです。今回はそんなウィスキーにまつわる神秘的な現象についてお話します。
用意するものはお好きなシングルモルトと「水1滴」
水割りやトゥワイス・アップなど、ウィスキーを水で“なんとかして”飲むというやり方は多々ありますが、今回使う水は「たった1滴」。
※トゥワイス・アップ・・・ウイスキーと水の比率が1:1の飲み方のことです。
1.まず、シングルモルトをグラスに注ぎます。
使用するグラスは、できればコニサーグラスを。なければ小ぶりなワイングラスなど香りを堪能しやすい形状のものがおすすめです。
※コニサーグラス・・・ウイスキー用のチューリップ型のグラスの事ことです。
2.ここで、ストレートのシングルモルトを口に含み、香りと味を記憶しておいてください。
3.次に、お水をスポイトなどで1滴、ぽとんとシングルモルトに落とします。
スポイトがなければ、こんなふうに小さなスプーンにほんの少し水をすくって落とします。
ほら、グラスの中をご覧ください。モーゼが海を拓くように、たった1滴落とされた「水」がウイスキーの中をかきわけてグラスの底に沈んでいくのが見えます。突然水が落ちてきたものだから、ウイスキーたちは慌てふためいてほわんほわんと逃げ惑っています。
これらを見届けたら、グラスに鼻を突っ込んで、香りを嗅いでみてください。そして、口に含んでみてください。…いかがですか?
今回は、キャンベルタウン出身のスプリングバンク(Springbank)10年さんにご協力をお願いしました。
ストレートで口に含むと、ちょっと塩をふりすぎちゃったフライドポテトみたいにちりちりと突っ張るスプリングバンクが、たった1滴「水」を投下しただけで、R◯YCEのポテトチップチョコレートみたいに甘みが加わり、まあるくなったではありませんか。
※味わいには個人差があります。自分なりの表現を見つけてみるのも、お酒を飲むうえでの至上の楽しみなのであります。
1滴の「水」がウィスキーを開花させる
ウィスキーを注いだグラスをやさしく揺すると、蒸留の過程で生成された油分がグラスのふちをふにゃふにゃと伝うのが分かります。「水」を1滴落とすことでこの油膜が破れ、ぷわーっと香りが立つために、より芳醇に感じるのです。通り雨が去った大地からむんむんと自然の香りが立ちのぼるメカニズムはよく分かりませんが、水が香りを呼び覚ますという点では、なんだか似ていますよね。
まとめ
今回のまとめです。
1.たった一滴の水でウイスキーの魅力は開花する
2.試すのは簡単、ウィスキーとたった一滴の水を用意するだけ
3.たった一滴の水滴を入れることで、前後の味・香りに変化が生まれます
「水」は、ウィスキーの原料として90%以上を占めています。そんなにも水が使われているのに、たった1滴の「水」だけで香りや味わいががらりと変わってしまうなんて、実に神秘的じゃあありませんか。
普段あまりストレートではウィスキーを飲まないという人も、夏休みの実験気分で「1滴の水」が起こす化学反応、試してみてはいかがですか?